PCR検査の仕組みを解説
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性・陰性を判定する方法

監修医師プロフィール

堤 直也

社会人経験の後、医学部学士入学を経て、医師となる。
国立病院機構等勤務のあと青い鳥会に勤務し現在に至る。
総合内科医、在宅医療の専門医として在宅医療の意味に真摯に向きあう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止に、PCR検査は欠かせないものとなっています。

最近では、従来の鼻の粘膜を検体とするPCR検査以外にも、検査時の痛みがない唾液検査を受ける患者様も増えてきました。

皆さんは、PCR検査がどのような仕組みで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性・陰性を判定しているかご存知でしたか?

この記事では、PCR検査の仕組みを知っていただくために、PCR法の原理やPCR検査の手順、陽性・陰性を判定する方法をご紹介していきます。

PCR検査の概要

検査機器

質問者

PCR検査が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染しているかどうかを調べる検査というのは知っているんですが、”PCR”って何を略した言葉なんですか?

堤先生

PCRとは、”polymerase chain reaction”の略であり、日本語ではポリメラーゼ連鎖反応という意味があります。

簡単に説明すると、ウイルスや細菌の遺伝子を増幅させて、ごく僅かに存在する痕跡を発見する検査法なのですよ。

質問者

なんとなくイメージはできましたが、ウイルスや細菌の遺伝子を増幅させる意図がよくわからないです。

堤先生

PCR検査に関しては、テレビやインターネットでもたまに難しい言葉が出てきますよね。

PCRに関する全てを理解するのは難しいかと思います。

ですから、重要なポイントに注目してPCR検査とは何かをご説明していきましょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者増加に伴ってPCR検査の需要も高まり、最近では行政指定の医療機関以外にも、民間のさまざまな機関がPCR検査の取り扱いを始めています。

PCR検査を受ける目的は理解していても、具体的にどのような仕組みで陽性・陰性を判定しているのかわからない方は多いと思います。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は生活する上で無視できない存在となっていますので、PCR検査に関する知識を深めていきましょう。

DNAの仕組み

PCR法をご説明する前に、まず理解しておきたいのがDNAになります。

DNAはデオキシリボ核酸の略称であり、人間が持つ細胞の全てに存在しています。

DNAそれぞれが遺伝情報を有し、遺伝情報を基にして人間のあらゆる器官や臓器をつくっているのです。

DNAは二重らせん構造で、2本のヌクレオチドという物質の鎖がお互いに逆向きで並んでいます。

らせんを繋ぐ棒状のものは、アデニン、チミン、グアニン、シトシンという4種類の塩基が並んだ構造になっており、塩基の並び順によって異なる遺伝情報を各細胞に伝達しています。

PCR法の原理

PCR法とは、DNA合成酵素の耐熱性DNAポリメラーゼというタンパク質を使用して、DNAの目的領域を増幅させる方法です。

耐熱性DNAポリメラーゼは、DNAを構成するヌクレオチドを重合させる働きがあり、ごく僅かな量であっても鋳型DNAが存在すればDNAの目的領域が増幅され、ウイルスや細菌を発見してくれるのです。

PCR法は、以下のステップを繰り返しながらDNAを増幅させていきます。

  1. 【熱変性】2本鎖の鋳型DNAを、94°C〜96°Cの熱で分離させる
  2. 【アニーリング】55°C〜60°Cまで温度を下げて、分離させた1本鎖の鋳型DNAに、目的領域の両端を補える配列を有する1本鎖のDNA(プライマー)を結合させる
  3. 【伸長反応】70°C〜74°Cの温度で、DNAの伸長反応を促す

ご紹介したのは、あくまでPCR法の要点となります。

PCR法は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染症分野以外にも、犯罪捜査などに応用されています。

PCR検査の仕組み

聴診器とPCRのロゴ

質問者

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発見するために、DNAの特定の領域を増幅させる必要があるのは理解できました。

PCR検査では、どのようにPCR法が使われているんでしょうか?

堤先生

PCR検査は、鼻咽頭拭い液、鼻腔内拭い液、唾液といった検体にあるDNAを解析して進められます。

検査の工程の中にPCR法が用いられ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発見しやすいようにDNAの目的領域を増幅させているのですよ。

3種類の検体を採取して解析するPCR検査ですが、どの検査法でもポリメラーゼ連鎖反応によってDNA配列を増幅させる手法が用いられています。

PCR検査の仕組みを理解できる具体的な手順をご説明していきます。

患者から検体を採取する

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が疑われる患者様や、濃厚接触者にあたる患者様などから、以下の方法で検体を採取します。

鼻咽頭拭い液を検体にする場合

鼻咽頭拭い液を採取する方法をご説明します。

患者様の鼻腔孔から耳孔の直線上に沿って、スワブをゆっくり挿入していきます。

抵抗を感じた場所の底面にスワブを付着させて状態を保持し、10秒くらい粘液を浸透させた後、スワブを5回転くらいさせてからゆっくり抜き出します。

その後、スワブを専用の検査試薬に浸して解析を行います。

スワブは最大10cmくらい鼻の奥まで挿入されますので、患者様によっては強い痛みを感じることがありますが、感度約98%という高い精度を誇る検査です。

鼻腔拭い液を検体にする場合

続いて、鼻腔拭い液を採取する方法をご説明します。

患者様の鼻の入り口から2cm〜3cmほどスワブを挿入していきます。

抵抗を感じた場所の上面にスワブを付着させて、10秒ほど状態を保持し、スワブを5回転くらいさせた後にゆっくり抜き出します。

その後は鼻咽頭検査と同様に、スワブを専用の検査試薬に浸して解析を行います。

鼻咽頭検査のような強い痛みを感じることなく検体を採取できる方法ですが、感度はやや低い約94%になります。

唾液を検体にする場合

鼻や喉の奥の粘膜だけでなく、自然と出る唾液も検体になります。

専用の容器に唾液を1ml〜2ml滴下させて、蓋をしっかり閉めるだけで検体の採取が完了します。

痛みを感じないPCR検査として需要が高まっていますが、感度は3種類のPCR検査の中で最も低い約90%とされています。

検体をPCRの検査試薬に浸す

採取した検体は、PCRの検査試薬に浸してゆっくりと浸透させていきます。

この工程によって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を由来するとRNAという分子を抽出することができます。

RNAはDNAの対になる分子であり、DNA配列の一部を写しとって(転写)、タンパク質に合成する働きがあります。

鼻咽頭拭い液や唾液にはウイルスの痕跡であるRNAやタンパク質が含まれており、それらを抽出することで解析を進められます。

RNAと同じ配列のDNAを精製する

PCR法は、DNA配列の特定の領域を増幅させる方法のため、前の工程で抽出したRNAからDNAに転換する必要があります。

そこで、逆転写酵素というタンパク質を用いて、RNAを2本鎖の鋳型DNAに合成します。

この鋳型DNAは、検体から抽出したRNAと同じ配列になっています。

耐熱性DNAポリメラーゼでDNA配列の目的領域を増幅させる

PCR法の原理でご説明したように、耐熱性DNAポリメラーゼを用いて2本鎖の鋳型DNAを温度の変化で分離させ、1本鎖の鋳型DNAにします。

1本鎖の鋳型DNAに対して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)特有のDNA配列の領域の両端に結合する塩基配列を用いて、DNA配列の目的領域を増幅させていきます。

この工程を繰り返して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)特有のDNA配列の増幅がみられた場合、陽性と判定されます。

感染者にウイルスの遺伝子は極微量しか存在しませんが、PCR法の原理によって発見に繋がるのです。

まとめ

PCR検査に用いられるPCR法の原理、そしてPCR検査で陽性・陰性を判定する方法をご紹介しました。

PCR法は、DNA合成酵素である耐熱性DNAポリメラーゼの働きによってDNA配列の特定の領域を増幅させる方法で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の痕跡を発見することが可能です。

3種類あるPCR検査はそれぞれ検体が異なりますが、同じPCR法を用いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性・陰性が判定できるようになります。

PCR検査の仕組み全てを理解するのは難しいですが、とても興味深いので、PCR検査を受ける際はこの記事の内容を思い出してみてくださいね。